food creation

Works

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TALISMAN in the woods _Hakusan
KAMU k ≐ k _KAMU kanazawa

17 December 2021- 23 December 2023
Venue : KAMU k ≐ k _KAMU kanazawa
Organizer : Kentaro Hayashida
Cooperation : 株式会社白峰産業/EarthRing
Management : Shinya Furui
Photo : Ichikawa Yasushi © Ayako Suwa Courtesy of KAMU kanazawa

石川県の水源地、白山麓の水源林から届けられたTALISMAN in the woods。

金沢の私設現代美術館「KAMU kanazawa」に展示するために制作された本作品はコロナ禍がまだ収束していない2021年12月17日に公開されました。(2022年12月23日までの2年間 展示予定)

諏訪が「タリスマン」と呼ぶ本作品は新型コロナウイルスか蔓延する2020年、アーティスト諏訪綾子がこれまで拠点にしていた東京から山梨県道志村という横浜市水道局の水源林を擁する森林地帯にアトリエを移したことかきっかけとなって、うまれました。

水源地である森での生活で「循環」そのものを身をもって体感して、林業に携わる土地の人たちとの交流がきっかけとなり、彼女は森林整備で伐採され、無用のものとして打ち捨てられていた大量の針葉樹の枝葉に着目するようになります。

そしてこの間伐された枝葉を束ねたものをコロナ禍でステイホーム中の東京都市部に住む友人たちに、宅急便でギフトとして贈りはじめます。

外出できず人と接触することもできない都市の人たちにとって、このオブジェは森林の気を感じる免疫力を高める精神的な「魔除け」「お守り」となっていき、やがてこの「森からのお裾分け」と「都市からのお裾分け」を交換するギフトの循環が始まります。
そんな何気ないお裾分けの心、ギフトから始まった都市と森林の一連の「循環」が本作品のテーマです。

本作品は、諏訪綾子の出身地、石川県の広域水源地「白山麓」の間伐材で構成されています。
身体を構成する源である水の循環の象徴が存在することで、都市生活者が自分もその循環の一部であること。
この展示が自然からのギフトに気づく「問い」となり、時空を超えていくつかの「循環が交錯するポイント」となることを目指して、制作されました。

水源地で制作され、水道供給地で展示されて二点を結ぶ循環。

今後各地に制作されていく展望と可能性を含んだ本作品は
諏訪綾子の出生地である石川県で初めて制作された記念すべき一点になりました。

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【アーティスト ステイトメント】

TALISMAN in the woods


森には野生の野性が満ちていて、
その美しい気を集める人たちがいる。

タリスマンはそんなふうに森と共に生きる人々によってつくられる。

”魔除け”であり”御守り”であるタリスマンは、
いつからか「循環のあじわい」への”招待状”になった。

わたしたちが口にする水は、どこから来てどこへ向かうのか。
わたしたちは、どこから来てどこへ向かうのか。

時空を超えて循環するギフトに、わたしたちは気づけるだろうか。


ー 2121年 都市に住むわたしたちには「行きつけの森」がある

その時が来れば誰に言われるでもなく森へ行き、深呼吸する。
わたしたちはそのタイミングとあじわい方を知っている。

100年前のわたしたちは野性を使わなくなってしまったことで、すっかり退化していた。

いま、野性を取り戻したわたしたちは、本当の進化がどういうことなのか知っている。
それが最初にはじまったのは、水源と繋がる、このポイントだった。


ー 2019年 すっかり野性を失いつつある

蛇口をひねり、ボタンに触れて、センサーが感知して、注文すればすぐ届く。
生きるための水も、火も石も土も食料も、すべて買うもので、商品になって久しい。
靴についた土が汚れになってしまったのは、いつからだろうか。
部屋に入り込んできた虫が異物になってしまったのは、どうしてだろうか。

野性が弱くなってしまったわたしたち。

誰かに委託するサービスに慣れきって、効率的に分業化され、合理的に数値化され、
たいていのことはお金で解決できて、内臓感覚も免疫力もコントロールを失って、

土に還すことも土に還ることも忘れてしまった。

都市でわたしたちが刻々と失っていくもの。

野性をとりもどしたい。
動物だった頃の記憶を辿って、忘れかけていた野性をとりもどす。
便利さに油断して退化してきたわたしたちは、本当の進化を思い出せるだろうか。
またあの日のように、自然の一部となって美しく循環できるだろうか。


ー 2020年 森と内臓がつながる

緊急事態宣言によって世界が一斉にストップした3月、私は山梨にある水源の森で暮らしはじめた。
蛇口からでてくる水は、驚くほど冷たく澄んでいて、

なにかが満ちていた。

それは森の中からひかれた湧き水だった。

毎日その水を飲み、その水に育まれたものたちをその水で調理して、食べ続けた。
それは細胞に浸透して内臓のすみずみにまで行きわたり、
消化し吸収し、身体の一部になって、私と一体化した。

そして排出する。

微生物が分解し、土に根に浸透して森のすみずみにまで行きわたり、
樹木や植物が吸収し、森の一部になって、野性と一体化した。

そしてまた湧き水になる。

それは沢を巡り川を巡り、都市の水源となる。
緊急事態宣言が明けた頃、私は東京で蛇口をひねる。
勢いよく流れるのはいつもと違う水だった。
あの時の森の水だったのかもしれない。
私はそれを口にする。
あふれて排水溝へ流れていく水に、はじめて本当の循環をあじわった。

海から空へ、雲になって雨になって雪になる、山に森に降り積もる。
春になり雪がとけて、また森の土を樹木をめぐり巡る。

毎日わたしたちの内臓をめぐり巡る。

いつのまにか私の内臓は森と繋がって、どこまでが内臓で、どこからが森なのか。
終わりも始まりもなく、自然の一部になって、自然と一体になって、内臓であじわう循環。

わたしたちはいつか美しい土に還って、湧き水になる。


ー 2022年 白山の森からタリスマンをお届けします

新型コロナウイルスによる緊急事態宣言中に、タリスマンはうまれた。
アルコールやマスクが不足して、先の読めない不安が充満していた頃、
都市でステイホーム中の友人たちへ、少しでも森の気を届けたかった。

森には樹木が発するフィトンチッドが満ちている。
それは動くことができない彼らが傷ついたときに、

自分自身を守るために発する野性。

わたしたち人間にとっても、浄化やリラックス、そして殺菌、免疫力をあげてくれるという。

森には自然と共に生きる人々がいる。
水や樹木の循環を巡らせるため、森の手入れをするフォレスターたちによって伐採される針葉樹。
幹は資源として利用されていても、枝葉はこれまで活用しきれずに森に放置されていた。
そんな枝葉を森で見つけて、私はその野性ににハッとした。

「森の気を、野生の野性を、集めたタリスマンを、
石川県の広域に水を供給する水源地、白山の森からお届けします。

”魔除け”であり”御守り”であり、そして『循環のあじわい』への”招待状”です。

あなたの部屋にこのタリスマンを吊るし、日常の中で森の野性をあじわってください。
だんだんと乾いてきますが、その美しい変化はあなたを森へ誘います。
タリスマンが色づき、その役目を終えたら、森へ還しにいらしてください。

それは土になり、水になり、樹木になって森になり、きっとまたわたしたちのもとへ巡ってくるでしょう。

水源の森へ、自然の一部になるような体験へとご案内します。

白山の森でお待ちしています。」


ー 2021年 <KAMU kanazawa>に森の気が満ちる

私はいま、生まれ育った土地へ立ち返る。
この身体と思考をかたちづくってきた、水がうまれる白山の森へわけ入る。

自然をあじわうばかりでなく、自然にあじわわれるのだ。
自然から受け取るばかりでなく、自然に贈ることはできるだろうか。

<KAMU kanazawa>に森の気が満ちる。

金沢という都市の中に立ちあらわれる、野生の野性。
そのコントラストは、わたしたちのいま。

タリスマンが乾くほどに、わたしたちの野性は取り戻されるだろう。

そして乾ききった時、白山の森で「タリスマンを森へ還すリチュアル」を行います。

<KAMU kanazawa>は、

いくつもの時空を超える循環が、交錯するポイントとなって、

タリスマンが都市へ届けられるたび、自然は巡り、
タリスマンが森へ還されるたび、わたしたちも巡る。

金沢という都市に集まる人、白山の水源の森で生きる人、都市と自然の、循環がめぐり巡る。

100年後の風習がうまれるなら、きっといま。

その内臓と繋がる「循環のあじわい」をご一緒に。

タリスマンの語源には「支払い」という意味もあるという。
わたしたちは自然からの恩恵に対して、なにを支払えるでしょうか。

諏訪綾子
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